もし勤めている薬局が承継されたら、現職薬剤師が知っておきたいこと
2026/11/06
「うちの薬局、来年から別の会社になるらしい」。ある日こうした話を聞いたら、落ち着いて仕事を続けるのは難しいかもしれません。給与はどうなるのか、今の店舗で働き続けられるのか、辞めたほうがよいのか。不安が一度に出てくるのは自然なことです。
この記事では、薬局が承継されるときに働く側から見て何が変わり得るのかを、承継の形ごとに整理します。先にお伝えしたいのは、承継されたからといって、条件が下がる、辞めなければならない、と決まっているわけではないということです。一方で、「何も変わらないはず」と思い込まず、一つずつ確かめておくことが大切です。
1. まず確かめたいのは「雇用主が変わるのか」
親族や従業員が継ぐ場合も、第三者が引き継ぐ場合も、働く人にとって大きな分かれ目は、雇用契約の相手が変わるかどうかです。代表的な形を見てみます。
- 株式譲渡(会社の持ち主が変わる形):会社そのものは続くため、一般的に雇用主は変わらず、雇用契約もそのまま続きます。ただし、経営者が変われば、方針や社内のルールが見直されることはあり得ます。
- 事業譲渡(薬局の事業を別の会社などへ移す形):雇用主が変わる可能性があります。労働契約を新しい会社へ移すには、働く人本人の承諾が必要です。個人経営の薬局を法人が引き継ぐ場合も、雇用主が変わります。
- 合併:労働契約は合併後の会社へ包括的に引き継がれ、労働条件もそのまま維持されるとされています。
このほか、会社分割には労働契約承継法という別のルールがあり、通知や異議の申出の手続きが定められています。
「承継」とだけ説明されて形が分からないときは、「雇用契約の相手はどこになりますか」「薬局の開設者(開設許可を受けている法人や個人)は変わりますか」と聞いてみると整理しやすくなります。開設者が変わる場合は、変更届ではなく許可の取り直しになると案内している自治体があり、保険薬局の指定の手続きも関わってきます。詳しい扱いは自治体などによって異なるため、ここでは「開設者が変わるかどうかで、薬局の手続きも働く人への影響も変わってくる」と押さえておけばよいでしょう。開設者が変わる場合、移行の前後は掲示物や書類の差し替え、患者さんへのご案内などで、現場の仕事が一時的に増えることもあります。
2. 労働条件は、会社の判断だけで変えられるのか
労働条件の変更は、労働者と使用者の合意によるのが基本です。厚生労働省の指針でも、事業譲渡で労働条件を変えて新しい会社へ移す場合には、本人の同意を得る必要があるとされています。
ただし、どんな場合でも変わらないというわけではありません。就業規則の変更によって労働条件が変わる場合もあります。変更後の就業規則が周知され、不利益の程度や変更の必要性などに照らして合理的であることが条件です。
事業譲渡で移ることを承諾しなかった場合はどうなるのでしょうか。指針では、承諾しなかったことのみを理由とする解雇は認められないとされています。とはいえ、勤めている店舗が譲渡されれば、元の会社に残っても同じ店舗で働けるとは限りません。「承諾しない場合、どこでどのように働くことになるのか」も、あわせて聞いておきたい点です。
指針では、会社側が事業譲渡の全体の状況や、移る先の会社の概要、労働条件を十分に説明することが適当とされています。書類への署名を求められても、内容を読み、分からない点を質問してから判断して差し支えありません。
3. 話を聞いたら確かめておきたいこと
調剤薬局では、書面の条件が同じでも、日々の運営が変わると働きやすさの感じ方が変わることがあります。次の点を順に確かめてみてください。
- 契約:雇用主はどこになるか、いつからか、労働条件を書面で受け取れるか
- 給与:基本給と各手当(薬剤師手当、管理薬剤師手当、住宅手当など)に加えて、賞与、昇給、残業代の扱い(固定残業代の有無を含む)がどうなるか。年収で比べるとどう変わるか
- 勤続・休暇・退職金:勤続年数は引き継がれるか。有給休暇の残日数はどうなるか。試用期間は設けられるか。退職金は引き継ぎか、いったん精算か
- 勤務地:異動や応援の範囲、通勤手当や車通勤の扱いは変わるか。2024年4月からは、労働契約の締結時などに、就業場所と業務の「変更の範囲」も明示することになっています
- 人員とシフト:処方箋枚数に対する薬剤師と事務スタッフの人数、一人薬剤師の時間帯、開局時間、年間休日数や休みの取り方は変わるか
- 仕事の進め方:在宅業務の方針(担当件数、夜間・休日の連絡当番の有無)、かかりつけ薬剤師の担当や患者さんへの説明、薬歴などのシステム、医薬品の発注方法や採用銘柄、本部への報告や決裁のルールは変わるか
- 評価と相談先:評価の基準や数値目標はどう変わるか。直属の上司や困ったときの相談先は誰になるのか
例えば、地域で数店舗を営む薬局の管理薬剤師の方が、経営者から「来春、別の会社に事業を譲る」と聞いたとします。この場合、まず確かめたいのは雇用契約の相手です。そのうえで、管理薬剤師を続けるのか、続ける場合は今の店舗か、手当はどうなるのか、管理薬剤師を外れる場合は異動や応援がどこまで広がるのかを聞いていくと、自分にとって何が変わるのかが具体的に見えてきます。
4. 残るか、動くかを考えるとき
話を聞いても、その場で結論を出さず、まず回答の期限を確認しておくと落ち着いて考えられます。そのうえで、新しい条件を書面で受け取り、今の条件と並べて比べ、自分が譲れない点と照らし合わせる。この順番で考えると、判断しやすくなります。
承継をきっかけに研修や制度が整う職場もあれば、ルールの変更が自分に合わないと感じることもあるでしょう。残ることも動くことも、どちらも選択肢のひとつです。比較の材料として、他の職場の情報を集めておく方法もあります。大手の傘下に入ったときに起こり得る変化や、職場の比べ方は、次の記事でも触れています。
説明に納得できない、解雇や条件の引き下げを告げられたといった場合は、各都道府県の労働局などにある「総合労働相談コーナー」に相談できます。無料で、予約も不要です。
まとめ
- 最初に確かめたいのは、雇用契約の相手と薬局の開設者が変わるかどうかです
- 事業譲渡で別の会社へ移るには、本人の承諾が必要です。労働条件の変更も合意によるのが基本ですが、就業規則の変更で変わる場合もあります
- 給与や勤続年数の扱いに加えて、人員、応援の範囲、仕事の進め方まで確かめておくと、変化が具体的に見えてきます
- 新しい条件を書面で受け取り、今の条件と比べてから、残るか動くかを考えてみてください
ご相談について
株式会社メディフィルは、調剤薬局の現場に近い立場から、京都を中心に薬剤師の転職・働き方のご相談をお受けしています。相談ベースでも問題ございませんせん。
「承継の話を聞いて、このまま残るか迷っている」「ほかの職場の様子も聞いてみたい」といった段階でも、お気軽にお問い合わせください。なお、個別の契約や法律上の判断については、労働局の窓口や弁護士、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
ご相談はこちら:https://medifill-work.com
※この記事は、薬剤師の転職支援(有料職業紹介)を行う株式会社メディフィルが、自社サービスのご案内を含めて作成しております。
出典
- 民法第625条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 労働契約法第8条・第10条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
- 厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00011980&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省「企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/saihen/index.html
- 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」:https://muki.mhlw.go.jp/rule.html
- 札幌市「薬局に関する手続き」:https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f4imuyaku/f90yakuji/gyousyu/yakkyoku.html
- 東京都多摩府中保健所「薬局の開設・医薬品の販売について」:https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/hokenjyo/tamafuchu/yakuji/jigyousha/kaisetu_hanbai
- サポート行政書士法人「薬局の運営法人を変更したい・経営権を譲り受けたい場合」:https://www.shigyo.co.jp/search_post/medical-cosmetics-liquor/yakyoku-kaisetsu/change-operating-company/
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」:https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.ht
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