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薬剤師として働き続けるために

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薬剤師として働き続けるために

薬剤師として働き続けるために

2026/10/06

現場の4分の3は女性、管理者の7割は男性

厚生労働省の統計によると、薬局で働く薬剤師の64.9%は女性です。管理者を除く勤務者に限れば、その比率は75.6%まで上がります。現場を回しているのは、圧倒的に女性です。

ところが開設者・代表、つまり管理者層になると比率が逆転します。男性71.1%、女性28.9%。現場の4分の3を女性が担っているのに、その上の層は7割が男性という構図です。

これは能力の差ではありません。女性の多くの場合、両立の時期にキャリアが止まり、そのまま戻らないという構造の問題です。

今、子育てと仕事の間で消耗している方に、最初に伝えたいのはこのことです。あなたが感じている限界の多くは、薬剤師という仕事の限界ではなく、今いる職場の限界かもしれません。

「両立できるかどうか」の半分は、職場で決まる

ママ薬剤師100人を対象にしたある調査で、「正社員で働けるママ薬剤師の条件」が聞かれています。

条件

割合

時短勤務ができる

51%

両親が近くに住んでいる

50%

家から職場が近い

30%

夫が協力的

26%

職場の理解がある

15%

保育園・学童が利用できる

12%

残業がない

9%

 

この並びを見て、気づくことがあります。2位の「両親が近くに住んでいる」や4位の「夫が協力的」は、いますぐ変えられるものではありません。

しかし1位の「時短勤務ができる」、3位の「家から職場が近い」、5位の「職場の理解がある」、7位の「残業がない」——これらはすべて、職場を変えれば動く条件です。上位7項目のうち4つが、転職によって解決しうる範囲にあります。

「環境に恵まれなかった」と自分を納得させる前に、変えられる側の条件がどれだけ残っているかを数えてみる価値はあります。

正社員の悩みと、パートの悩みは、まったく別物

同じ調査で、雇用形態別の困りごとも聞かれています。これが非常に示唆的です。

正社員として働くママ薬剤師の困りごと

困りごと

割合

突発休が多くなる

36%

残業や急な出勤がある

32%

子どもの行事に休みにくい

18%

土曜勤務がある

11%

異動がある

10%

 

パートとして働くママ薬剤師の困りごと

困りごと

割合

給与が低い・昇給しない

43%

知識・経験不足になりがち

37%

キャリアアップできない

26%

他の人に負担をかける

11%

認定薬剤師になりにくい

6%

 

並べると、性質の違いがはっきりします。正社員の悩みはどちらかというと「今」の問題で、パートの悩みはすべて「将来」の問題です。

ここに、両立期の最大の罠があります。いま苦しいのは正社員の悩みのほうなので、多くの人がパートに切り替えます。突発休は取りやすくなり、残業もなくなる。今の苦しさは確かに消えます。

しかし数年後、別の問題が立ち上がってきます。昇給しない。知識が追いつかない。キャリアが止まる。そして子どもに手がかからなくなったとき、正社員に戻ろうとしても、ブランクのある時短勤務者として扱われる。

パートが悪いという話ではありません。ただ、「今の問題」を「将来の問題」と交換しているという自覚を持って選ぶべきだということです。そしてこの交換をせずに済む職場が、実は存在します。

3歳の壁と、小1の壁

制度の話を正確にしておきます。

育児・介護休業法で義務づけられている時短勤務は、子どもが3歳になるまでです。1日の所定労働時間は原則6時間。ここまでは、どの職場でも法律上利用できます。

問題はその先です。3歳以降の時短は、各社の独自制度に委ねられています。「小学校就学前まで」「小学校3年生まで」「小学校卒業まで」と幅があり、制度そのものがない職場もあります。

そして、保育園を卒業したあとに訪れるのが小1の壁です。学童の終了時刻は保育園の延長保育より早いことが多く、長期休暇中の対応も必要になる。「保育園のほうが楽だった」という声は、この時期に集中します。

つまり両立の可否は、3歳と6歳の2回、はっきりと問われます。いまの職場がその2回を乗り切れる設計になっているかどうかは、子どもが0歳のうちに確かめておいたほうがいい情報です。

結局、両立を左右するのは「人数」

現場の実感として、両立のしやすさを最も左右するのは制度ではありません。その店舗に薬剤師が何人いるかです。

薬剤師が2人の店舗で、片方が子どもの発熱で休めば、残った1人が全部を背負うことになります。こうなると制度があっても使えません。「休みます」と言うたびに同僚に負担をかける構図では、気持ちのほうが先に折れます。

逆に3人以上の体制があれば、突発休は吸収されます。シフトに余白があるかどうか。これが制度の有無より効きます。

あわせて見るべきは営業時間と土曜勤務です。朝8時から夜8時まで開けている薬局と、平日9時〜18時の薬局では、組めるシフトがまったく違います。土曜が月1回なのか隔週なのかでも、家庭の予定の立て方が変わります。

ここで正直に書いておくべきことがあります。2026年6月の改定で、薬局の体制を評価する加算の上位区分に、休日・夜間の対応体制が要件として組み込まれました。つまり業界全体としては、薬局が夜間や休日に開く方向に動いています。両立を考える人にとっては、必ずしも追い風ではありません。

だからこそ、その薬局が体制をどう組んでいるかを確かめる意味があります。当番制で回しているのか、特定の人に寄せているのか。在宅のオンコールは誰が持つのか。同じ「夜間対応あり」でも、実態はまったく違います。

時給で比べると、判断を誤る

待遇の話もしておきます。

パート薬剤師の平均時給は、厚生労働省の令和6年度データで2,639円。職場別では調剤薬局が約2,200円、ドラッグストアが約2,600円という調査結果があります。大阪府の相場は約2,300円。派遣であれば3,000円を超えることも珍しくありません。

数字だけ見れば、時給の高い働き方を選びたくなります。ただ、ここで比べるべきは時給ではありません。

時短正社員とパートを分けるのは、賞与と昇給、退職金、社会保険の扱い、そして研修や認定取得の機会です。時給が200円高くても、賞与がなく昇給もなければ、年収では逆転します。さらに5年後の役割まで含めれば、差はもっと開きます。

比べるなら、時給ではなく「年収」と「5年後に任されている仕事」で比べてください。 時給は目に見えやすいぶん、判断を歪めます。

時短でも、キャリアは止めなくていい

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。

時短勤務を選ぶと昇進や評価が止まる——いわゆるマミートラックは、確かに多くの職場に存在します。先ほどの「管理者の71.1%が男性」という数字は、その結果でもあります。

ただ、これは業界全体のルールではなく、個々の職場の運用です。時短勤務者を評価の対象から外す職場もあれば、時間あたりの成果で評価する職場もある。時短のまま管理薬剤師を務めている人がいる薬局も、実際に存在します。

確かめ方は簡単です。面接で「時短勤務中の方で、管理薬剤師や役職に就いている方はいますか」と聞けばいい。前例があれば具体的な名前と経緯が返ってきますし、なければ「今のところいませんが」という答えになります。どちらの答えも、十分な情報です。

薬剤師という資格は、いったん止まっても戻れる強さを持っています。ただし「戻れる」と「戻りやすい」は違う。戻りやすい場所に身を置いているかどうかで、10年後の景色は変わります。

関西は、通える範囲が広い

条件の3位が「家から職場が近い」だったことを思い出してください。通勤時間は、子育て期において決定的な要素です。片道15分と45分では、使える時間が1日1時間違います。

その点で関西は恵まれています。大阪府に4,664施設、京都府に1,214施設。自宅から30分圏内に、相当数の薬局が存在する計算になります。京都・大阪・兵庫が互いに通勤圏に収まっているため、府県をまたいだ選択も可能です。

「近くて条件の合う職場なんてない」と思い込んでいる方は多いのですが、実際に地図の上で数えてみると、候補は想像より多く残っているはずです。

面接で確認したいこと

抽象的な話はここまでにして、具体的な確認事項をまとめます。

  1. その店舗の薬剤師は何人か。突発休が出たとき、どう回しているか
  2. 時短勤務は子どもが何歳まで使えるか。法定の3歳以降の社内制度はあるか
  3. 土曜勤務の頻度と、シフトの決め方。希望休はどこまで通るか
  4. 在宅のオンコール当番の有無と、担当の決まり方
  5. 時短勤務中の評価と昇給の扱い。時短のまま役職に就いた前例はあるか
  6. 子どもの学校行事での休みは、実際に取れているか

5番と6番は聞きにくく感じるかもしれませんが、むしろ聞くべき質問です。これらにきちんと答えられる職場は、答えられること自体が体制の証明になります。言葉を濁す職場は、入ってから同じ思いをすることになります。

「職場の理解がある」を分解する

求人票にも面接にも、必ず「子育てに理解のある職場です」という言葉が出てきます。これを額面どおりに受け取らないでください。悪意があるわけではなく、言っている本人も本気でそう思っているのですが、「理解」は人に宿ると消えるからです。

店長が良い人だから休みやすい、という職場は少なくありません。しかしその店長が異動すれば、理解ごといなくなります。頼れるのは仕組みのほうです。

「理解がある」と言われたら、こう聞き返してください。

直近1年で、時短勤務を利用した人は何人いますか。急な早退や当日欠勤は、実際に月どのくらい発生していて、どう処理していますか。シフトは誰が作っていますか——本部が組むのか、店舗で決めるのか。これはかなり重要で、店舗で組める職場のほうが融通は利きます。

数字で答えが返ってくれば、それは仕組みがある証拠です。「大丈夫ですよ、みんな協力的なので」としか返ってこない場合、その職場の両立しやすさは誰かの善意に依存しています。善意は尊いものですが、制度ではありません。

門前の診療科で、生活はかなり変わる

意外と語られないのが、どの医療機関の処方箋を受けているかによる違いです。これは日々の生活に直結します。

小児科の門前は、夕方と土曜に患者が集中します。保育園のお迎え時刻と、薬局がいちばん忙しい時間が正面からぶつかる。しかも冬は繁忙期で、自分の子どもが感染症をもらってくる時期と重なります。やりがいのある現場ですが、乳幼児を育てながら働くには相当の体制が必要です。

一方、内科や整形外科のクリニック門前は、診療時間に連動するため終業時刻が読めます。眼科や皮膚科の門前は処方内容が比較的軽く、残業が発生しにくい。総合病院の門前は処方箋が特定の時間帯に固まるうえ、一枚あたりの重さも増します。

在宅に力を入れている薬局は、訪問スケジュールを自分で組める利点があります。ただしオンコールの当番が回ってくるかどうかで、評価は正反対になります。

調剤併設のドラッグストアは時給が高く、調剤薬局の約2,200円に対して約2,600円という水準です。ただし営業時間が長く、土日のシフトが前提になりやすい。収入と時間のどちらを優先するかで答えが変わります。

同じ「調剤薬局の時短勤務」でも、門前がどこかで生活は別物になります。 求人票を見るとき、必ず確認してください。

一度パートにした人が、正社員に戻る道

すでにパートに切り替えている方にも触れておきます。

正社員への復帰は可能ですが、職場によって難易度がまったく違います。社内に登用制度がある会社なら道は開けていますが、「パートはパート」と区分が固定されている会社では、中にいるかぎり戻れません。この場合、転職のほうが近道になることがあります。制度があるかどうかは就業規則に書かれているはずなので、いまの職場のものを一度確かめてみてください。

そして、戻るときに効いてくるのは在籍年数ではなく中身です。処方箋枚数の多い店舗で経験を積んでいるか。在宅に関わった経験があるか。認定薬剤師の単位を細々とでも積んでいるか。パートであっても、こうした実績は正社員への復帰時に評価されます。

逆に、週2日・処方箋の少ない店舗で数年過ごすと、復帰のハードルは上がります。パートを選ぶこと自体は何の問題もありません。ただ、どんなパートとして働くかは、将来の選択肢を左右します。

他の職場も見てみる

両立に悩むとき、多くの人が「続けるか、辞めるか」の二択で考えます。あるいは「正社員のままか、パートに落とすか」の二択で。

しかし実際には、三つめの選択肢があります。職場を変えることです。

同じ時短勤務でも、薬剤師が5人いる店舗と2人の店舗では別の仕事になります。同じ正社員でも、18時に閉まる薬局と20時まで開く薬局では生活が違います。資格も経験も変えずに、働き方だけを変えられる余地が、薬剤師にはまだ残っています。

そして、いま現場で実務を担っている薬剤師の75.6%は女性です。その層を失い続けることは、薬局にとっても損失です。だからこそ、体制を整えて迎えようとする薬局が確実に増えています。

求人を見ることは、辞めることではありません。まずは、自分が通える範囲にどんな選択肢があるのかを確かめるところから始めてください。続けるという結論を出すにしても、比較したうえで出した結論のほうが、ずっと強いものになります。

最後にひとつ。動くタイミングについてです。保育園の入所申請や進級のことを考えると、年度の切り替わりに合わせたくなるのは自然なことです。ただ、求人は年度に関係なく出入りします。条件の合う職場が見つかったときが動きどきで、逆に「4月に合わせよう」と待っているうちに枠が埋まることのほうが多い。情報だけでも先に集めておくと、良い求人が出たときに動けます。

出典

厚生労働省「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計」(薬剤師の男女比・役職別構成)/厚生労働省「令和6年度賃金構造基本統計調査」(短時間勤務の時給)/厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例」(薬局数)/合同会社スマスタ「ママ薬剤師の働き方に関する調査」(2021年12月、回答100人)/アポプラス薬剤師「パート薬剤師の平均時給」/マイナビ薬剤師「薬剤師は時短勤務で働くことは可能?」/令和8年度調剤報酬改定 関係資料

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